若者ユースワークショップ(Månsas Deli、フィンランド・ヘルシンキ市)

2024年1月30日

私たちの訪問:2023年9月8日
話をうかがった相手:ユースワーカーのRiikka Valkonenさん

<以下の内容は、訪問時現在の内容です>

文化施設Maunula Houseの中にあるMånsas Deli

Månsas Deli は、ユースセンター、図書館、成人教育センター、文化ホールを備えた複合型文化施設Maunula Houseのエントランス近くにある、若者ワークショップ(Youth Workshop)が運営するカフェだ。

Maunula Houseは、この地域に芸術・文化の活動や催しができる施設がなかったことから、住民たちから施設設置の要望が上がり、住民の声を受けて2017年に開館した。その際、施設内にカフェを作ってほしいという声もあり、ユースワーク活動の一環としてのカフェをオープンした。それがこのMånsas Deliである。ヘルシンキ市の若者ワークショップは、教育部局が管轄することが一般的だが、このMånsas Deliは市内で唯一ユースワークの部局と教育部局が協働で行っている。

お話をうかがったRiikkaさんは、Månsas Deliのすぐ隣になるユースセンターのチームリーダーでもある。2006年からユースワーカーとして働いておいり、Munula地域にある4つのユースセンターすべてで働いた経験があり、Maunula Houseには設置計画の段階から携わっていた。

Månsas Deliで働く若者たち

この場も含めて、若者ワークショップに参加するのは、失業・無業・休学中の17歳~29歳の若者たちだ。試用期間は1〜6ヶ月で、ほとんどが市役所やハローワークから「何もしていないなら行ったら?」と促されてやって来る。そのため多くは、学校に行きたくない、仕事に就きたくないと考えていた若者たちが多く、最初から望んできているわけではない。ただ、中には「カフェをやってみたい」という若者や「徴兵の前のブランク期間を有効に使いたい」という積極的な若者もいる。大学休学中にここで働いたのち、大学に入り直す者もいた。Månsas Deliでは、多くの若者に仕事と調理を初めて経験する機会や、有意義なグループの一員になる機会を提供している。

Månsas Deliは職業高校とも連携しており、カフェでの仕事は学校のカリキュラム上、実習の10~30単位として認められる。また、ユースワーカーの資格取得を目指す若者たちも、ここで働くことで実習の単位が取得できる。

現在は8名の若者が働いている。失業・無業の若者が参加すると、失業保険の他、交通費・昼食代として1日9€程度が支給される。いまここで同僚として働く一人(ハタさん)は、当初はワークショップの参加者だったが、その後、ユースワークを本格的に学びたいとアプレンティス(訓練生)となり、いまは、ここで実習をしている。

ユースワークと共同で行う若者ワークショップの良さ

カフェには、いろいろな仕事があるので、人とコミュニケーションが取れなくても働くことができる。ある若者は7年間ひきこもりだった。ここに来て3か月は、おはようと言ったきり何も話さなかったが、話さなくても良い仕事を担当し、真面目に自分のやるべきことをやっていた。働くうちに少しずつ達成感を味わっていき、まわりの声を聞いたり、返事をするようになり、「もっとこうした方がいい」など自然に言葉を発するようになっていった。このように変化していくまで、ワーカーや仲間がじっくり付き合える職場だ。

学校のカリキュラムの一環として、ここで実習をする若者たちは、学校の先生がついて単位計画を立てるが、日々一緒にいるRiikkaさんが本人に合わせて「今は無理しないでこれからやろう」と相談することもある。ユースワーカーが介在している良さであり、やりがいを感じる。

異なる若者が一緒に関わるうえで心がけていること

Riikkaさんは若者たちに「あなたがあなたらしくいることがルールだ」と話している。仕事上で約束をしたのに出来ていないなどの指摘はして良い。しかし、ある若者が自分なりに一所懸命やったことに対して、人格否定をしたりいじめたりする若者に対して、何度指摘しても改めなかったため辞めてもらったことがある。同時期に仕事を始めるとグループができたり、出来る出来ないが目立ちがちだが、このカフェはみんなバラバラの時期に入ってくるので、あまり人と比較しなくて済む。今まで一人が当たり前だと感じていた若者も、ここで1人ぐらいは気の合う子を見つけ友達ができる。学校だと同じような若者との関りが中心になるが、ここは自分の意志で来たわけではない若者と、積極的な若者がおり、異なる若者たちが融合して調和を学んでいけるのが面白い。彼らが自分たち自身で学んでいるなと感じている。「普通じゃない子なんていない。一人なのは気の合う子にたまたま出会わなかっただけ」だと思っている。

全体のミーティングは一週間に一度行っている。若者たちの気持ちを聞いたり、今後の仕事について話す。月に一度はカフェを閉めて、レクや他の仕事の見学に行く日を作っている。

ユースセンターとワークショップでの若者との関わりの違い

ユースセンターでは、6、7年の長い期間若者たちに関わる。年齢に応じたケア・声掛けを行い、問題のあるなしに関係なくその若者が大人になる過程に寄り添う。しかし、長い関わりのなかで、この子のために何ができたのかなと思うこともあり、結果が見えないことも多い。

それに対して若者ワークショップは、長くても6か月しか同じ若者と関わることができない。短い期間のため、社会性を身に着ける、仕事の大切さを学ぶなどその若者の目的を達成するために集中して関わり、若者の大きな変化・成長の過程が実感でき、それが楽しいと感じる。ユースセンターと若者ワークショップでの関わりは、どちらも人との関係をつくり、若者たちが自分の人生を自分できちんと考えていく過程に寄り添うため、本質は共通していると感じている。

複合型施設の中にあること

カフェは土日に営業しないので、その日は住民の人に使ってもらったり、他のユースセンターに一日カフェを貸し出すなど臨機応変な利用もしている。Maunula Houseのような施設の場合、複数の機関・団体が入っているため、責任の所在がはっきりしにくく、揉めるようなこともあるが、ここではうまくできている。

近所のおじいちゃん、おばあちゃんが若者に話しかけてくれるような様子も見られる。勝手にしゃべりかけて帰っていく場面もいいなと感じている。

Maunula Houseの内部をめぐる
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