学校内のユースワーク(School youth work in Vuosaari フィンランド・ヘルシンキ市)

2024年1月16日
私たちの訪問:2023年9月7日
話をうかがった相手:Puistopoluk comprehensive school校長のPertti Tossavainenさん、同校中学校部担当ユースワーカーのYvan Kasongoさん、Vuosaari地域の他校担当ユースワーカーのAnniina Koivumakiさん

<以下の内容は、訪問時現在の内容です>

スクールユースワークが始まった経緯
スクールユースワーク

コロナ禍の行動制限で子どもの居場所が学校と家庭に限られたことや、リモート教育の広がりにより、子どもたちに対人コミュニケーションの課題がみられるようになり、この課題に対応するニーズが高まっていた。また、放課後の居場所が欲しいとの声もこの地域には多くあり、学校にユースワーカーを配置するスクールユースワークの予算を国がつけた。私たちが訪問したVuosaariを含むヘルシンキ東部地区には年間10万ユーロの予算がつけられた。コロナ前からYOPO(ヨポ)という、ユースワークと学校が連携して取り組む学習支援のプログラムが行われていて、そこでユースワークの成果が認められたことも後押しとなった。現在市内で7カ所の小中学校、10カ所の高校、4カ所の専門高校にユースワーカーが配置され活動している。授業終了後の14時~18時までは学校をユースセンターとしても使用できるようにもなった。

Puistopoluk comprehensive schoolの概要
校長先生

私たちはユースワーカーが配置されている学校のひとつ、Puistopoluk comprehensive school (日本の公立小中学校にあたる)を訪れた。Kallahti Youth Center に隣接した学校だ。入口を入ると、学校長のPertti Tossavainen先生がにこにこと迎えてくださり、学校の概要を教えてくれた。この学校の1~9学年の全生徒数は867人(約50クラス)で、教職員は100人(教員の他、看護師2人、スクールソーシャルワーカー2人、 ユースワーカー2人、用務員2人)いる。移民が多い地域であるため、校長の判断で学校予算の配分を工夫し、1~2学年は1クラス16人とし、読み書きの指導を手厚くしている。各学校の予算は決まっているが、使途の配分は校長に権限があるという。この学校の教職員には生徒と関わろうという高いモチベーションがあり、給食の時間も生徒と一緒に過ごしている。また、食堂に向かう階段を下りた踊り場には、コロナ期に生徒が描いたという、マスク姿の校長先生の大きな絵がかけられていて、そのユーモラスな姿から、生徒と校長先生の距離の近さもうかがえる。

スクールユースワークの実態
スクールユースワークの実態

この学校で働くユースワーカー、Yvan さんの仕事の50%は子どもたちとの関わりで、残りはスクールユースワーク確立に向けた準備と発信に充てている。

ユースワーカーは学校の中で授業に使われていない教室や体育館などを自由に使える権限を持っている。また、校内の一教室をユースワークのスペースとして使っている。教室や廊下は騒がしいため、静かに過ごしたり、若者と話したりするための場所にしている。子どもたちが家のようにくつろげる場所にするためにチェスやボードゲームを用意している。ユースワーカーは子ども達にとって悩みなどを話しやすい存在であるため、まずYvanさんが子どもと話し、その後、学校内外の他の専門職・機関につなげたほうが良いか否かを判断している。

YOPOでのユースワークと現在との違い

Yvanさんは以前、学習に課題がある子どもを支援するYOPOにも関わっていたことがある。その時は、教師と2人ペアで8人の子どもを担当していた。子どもたち同士でグループをつくることはなく、1人ひとりの生徒の課題に合わせて個別対応をすることが多かった。座学での勉強が難しい子どもが参加する活動なので、中学卒業後の将来につながるように仕事の体験などを重視した実習を多く行っている。

一方で、今この学校でのスクールユースワークでは、個々に知り合った子ども同士をできるだけつないでいき、グループをつくることを重視しており、グループづくりがユースワーカーの主な仕事になっている。そこがYOPOとの大きな違いだと感じていて、Yvanさんは、こちらの方がよりユースワークらしい活動だと感じている。

スクールユースワークの良さ
廊下

校内でのYvanさんの定位置は、廊下の突き当たりにあるデスクだ。与えられた小部屋もあるが、ここにいることが多い。ここにいると、生きた時間で子どもと関わることができる。子ども同士の話を横で聞いたり、子どもが悩みや不満を感じたその瞬間に立ち会い、子どもの気持ちを聞くことができる。

子どもはやはり教師や学校にいる大人とは距離を感じる。自分自身も移民の出自であるYvanさんは、自分の学校時代の経験から、安全で安心して相談できる大人が学校の中にいることが重要だと思うと話す。ユースワーカーとして学校に入り込むことで安全な場所を子ども達に与えられていると感じている。

ユースワーカーが学校で大事にしていること

Yvanさんは、学校側の要望に応えて学校の不足を補うためではなく、子どもの声に応えていつでも話せる大人としてその場にいることを大事にしていると話す。同地区の他校でユースワーカーとして働くAnniinaさんは、子ども達が学校を好きになれる空間づくりと、子どもたちにとっては友達が大事なので、自分たちユースワーカーは、子どもたちの友達づくりの手助けになる活動を大事にしているという。評価する立場の教師とは違う関係性によって子どもは本音を話しやすく、それを聞くのが自分達の役目だと思っている。

スクールユースワークの難しさ

課題は、学校や地域、保護者によって、スクールユースワークに対するニーズや反応が異なることだ。Puistopoluk校ではスクールユースワークに信頼と期待が寄せられ、Yvanさんは校内で自律的に活動できている印象だが、Anniinaさんがユースワークをしている学校は対照的だという。ユースワーカーだけでなくスクールソーシャルワーカーなどに対しても校長・教員からの風当たりが強く、子どもと話せる場所を校内で提供してもらえないなど不自由な実態もある。フィンランドでも、教師のほうがユースワーカーより立場が上だという考え方をする学校はまだある。Anniinaさんはユースワーカーと教師の協働の難しさの背景に、同じ子どもの行動に対しても両者の見方が異なる場合があることを挙げていた。

外部機関と協働する重要性について

Puistopoluk校学校長のPerttiさんは、学校(教員)だけで子どもを育てることはできないと考えている。ソーシャルワーカーやユースワーカー、福祉機関、警察など関係者・機関との連携は重要で、Yvanさんのユースワーク実践の価値を認め、重んじていた。また保護者やPTAとの協力にも重点を置いている。

Pertti Tossavainenさん(校長Principal)
Yvan Kasongoさん(同校中等学校部を担当するyouth worker)
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